あらいくまたんです。
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フラッシュバック第二話
「ニンゲンって、知ってますか」
別の大人の群れと話して戻ってきたウオンが真面目な顔をして僕らに聞いた。リヤルと僕は無言で首を振った。
ウオンが聞いた話によると、ニンゲンとは水の上の巨大なずる賢い生き物で、よく川に来て僕らを捕まえていくらしい。
「捕まえてどうするつもりなの?」
「そのまま乱暴に戻すのもいれば、連れ去って巣で監禁するのもいるらしいです」
「どちらにしろ嬉しいことではなさそうだね。どうやって捕まえようとして来るんだろう」
答えようとウオンが口を開きかけたそのとき、重苦しい音が響いて、上から巨大な銀色に光る空気の泡が降りてきてはじけた。それまで穏やかだった水の流れが乱れ、三人ともあわてて逃げ始めた。
「おそらくニンゲンです。逃げてください」
「ウォン、あのでっかい白いのは何?」
「ニンゲンが僕たちメダカを捕まえるときに使う『網』です。入ってしまったらもう出られません」
必死に反対方向に泳ぎ始めたリヤルの目の前にもう一つ、『網』が現れた。
「リヤルっ……、止まって!」
僕の静止も間に合わず、大声で叫びながらリヤルは『網』に突進して捕まってしまった。
「ウオン、どうすれば……」
「とにかくここから離れましょう。水面の上まで引き上げられてしまった以上、今の僕たちにできることはありません」
僕は見てしまった。そう言ったウオンの目に雫が盛り上がり、光りながら溶けていった一瞬を。
群れのみんなはもう尖った岩の下に安全な場所を見つけていて、僕とウオンも慌ててそこに逃げ込んだが、逃げきれなかったり、捕まった子を助けようとしたりして飛び出して行き、捕まってしまうメダカが何匹もいた。
「みなさん、暗くなるまでは出て行かない方がいいと思います。いつまでニンゲンがいるかわからないので」
ウオンが一生懸命呼びかけたが、パニック状態は収まらなかった。
もともと四十五匹いた僕らの群れで、このとき、無事に生き残ったメダカはわずか十五匹ほどだった。
その日のうちにリヤルは戻ってきた。かすかな光が茜色に変わってきたころに。捕まるときの怪我で元気がなく放されたらしい。ぐったりしているリヤルのために、ウオンと二人でイトミミズを運んだりしたけれど、結局怪我が元になって彼女は三日後に死んでしまった。怪我が痛いだろうに、リヤルはいつものように僕らと話して笑っていたっけ。差し込む光はいつもよりきらきらと輝き、その眩しさが心にしみてどうしようもない哀しさを映し出した。『死ぬ』というのがこんなに辛いことだと初めて知った。
仲良し三人組は、大人になる前に二人になってしまった。