あらいくまたんです。
将来の夢は小説家の現在中1ピヨ子は
小5の夏休みに初めて書いた小説が
小さな自治体主催の文学コンクールで入賞し
小5、小6、中1と3年連続で同じコンクールで入賞しています。
それらは200字詰め原稿用紙10枚以内が規定の短編小説です。
その作品たちは著作権が主催者にあるため公開できないのですが
今年は長編小説を別のコンクールに応募し、残念ながら選外となりました。
入賞作品以外は著作権が本人にあることがわかったので
本人の同意を得てブログで公開してみることにしました。
ピヨ子の初めての長編小説、楽しんでいただけたら幸いです。
フラッシュバック第一話
これは、小さなメダカの小さな物語。
プツリ。
音にもならないような小さな音がして、何だろうと思って体を回したとき、僕を閉じ込めていた「なにか」は勢いよく割れてしまった。外の水はとても爽やかで、流れが速い。流される、と思ったそのとき、僕は体を動かせるのに気がついた。背ビレも尾ビレも、胸ビレも、動かせば泳ぐことができる。少し変な泳ぎだったけれど、僕は水草の周りを泳いで一周した。斜めにさしてくる淡い光もとても爽やかですがすがしい。生まれて初めての感触に僕は心踊る気分だった。
プツリ。プツリ。
周りにたくさんあった「なにか」も次々に割れ、中から僕と同じ、メダカの子がたくさん脱出してきた。爽やかな水の中を上へ下へと、誇らしげに泳ぎ回っている。
光はいつの間にか上から照らし、だんだん水も温かくなってきたころ、みんなは友達作りを始めた。思い思いに自分に名前をつけているメダカがたくさんいる。
「そこの男子!友達にならない?」
後ろから声がした。振り向けば陽気な女の子。笑顔が輝いているような子で、話すのがとても好きそうだった。
「今仲良しグループを作ろうとしてて、何となく三人組がいいと思ってるんだけど、」
どうやら気が合いそうな子を探していて、僕みたいな『ボーッとしてるやつ』が面白いと思って探していたらしい。
「とりあえず名前、教えてあげてください」
口を挟んできたのはとても頼もしそうな男の子だ。なんでも知っているような感じの。
「名前なんてないからとりあえずナナシでいいよ。君らの名前は?」
「リヤルだよ。よろしく!」
「ウオンです。よろしくお願いします」
「えぇ、ウォンの方が言いやすくない?」
そんなこんなでできた仲良し三人組は、なんだかんだでうまくやっていけそうなのであった。
「リヤルさん、ずいぶんと痩せましたね」
水が温かくなってきて、斜めにさす光の眩しさで目を覚ました頃、ウオンがリヤルを起こしながらそう言った。
確かに、お腹にあった膨らみがだいぶしぼんでいる。群れの中にも何匹か、同じように痩せているメダカがいるようだった。
「あ、イトミミズ」
寝ぼけて独り言を言った僕の視線の先を見るやいなや、リヤルは泳いで行ってパクリとそれを飲み込んでしまった。
「うん、美味しい。みんなもお腹減ったら食べなよ」
ウオンも無言で食べ始めた。
パクリ、パクリ。
「なんかねー、これからは毎日何か食べないといけないらしいよー」
リヤルが言うにはこうだ。今まではお腹に生きていくのに必要なものが貯えてあったけれど、それを使い切ってしまったから、これからは色々なものを食べて補給していかないと死んでしまう、と。
「どこにそんなに物知りなメダカがいたのか気になりますね。いつか、僕とそのメダカのどちらの方がより物事を知っているか勝負したいものです」
「まぁまぁそんなにライバル視しないで。ってナナッシー聞いてる?」
僕は近くで泳いでいる小さい虫が気になって聞いていなかった。
「あ、これボウフラだ」
パクリ。
「……て、……逃げて、みんな逃げて!」
揺れる水草の陰で昼寝をしていた僕は、遠くの誰かの悲鳴に揺り起こされた。
「ナナシさん、とりあえず逃げますよ」
切羽詰まったウオンの声にいよいよはっきりと起こされ、僕は出せる限りのスピードで川下まで泳いで逃げた。
水面の上の大きな葉に覆われ、光のないところまで逃げたとき、ウオンがやっと口を開いた。
「ヤゴって、知ってますか」
「知らないや」
「僕たちの天敵ですよ。僕たちがイトミミズやボウフラなんかを食べるのと同じように、ヤゴは僕たちを食べるんです」
「食べられたらどうなるの」
「死ぬんです」
「……えぇっと、その『死ぬ』って何?」
少しの沈黙の後、とにかく、とウオンは話をそらした。
「リヤルさんを探した方がいいかと。リヤルさんのことだから、助けに行ってしまったのかもしれません」
「でも、ヤゴのそばまで行くわけにはいかないでしょ」
聞き込みでもします?何か知ってるなら既に僕らに教えてくれてるでしょ。
いくら話し合っても何も出てこず、いよいよ焦り始めたとき、
「二人とも!なんでそんな険しい顔してんの?」
と言って、ヤゴのいた方から何事もなかったようにリヤルは戻ってきた。
「ううん、なんでもないよ。まさか助けに行ってたの?」
「無事で良かったです。危ないのであんまりヤゴの近くには行かないでくださいよ」
「はぁい。ごめんよぉ」
三匹はまた笑い合った。小さな空気の球は、いつものようにチラチラと銀色の光を放っている。見上げた水の上は少しだけ、灰色に陰っていた。