あらいくまたんです。
中1ピヨ子の自作小説を公開しています。
フラッシュバック第五話
泳ぎの上達が目に見えて大きくなってきた。昨日ハミと比べたときは惜しくも負けてしまったのに、今日同じ距離で競争をしたときはギリギリでハミを抜かすことができた。久しぶりに感じた、静かだけれどあたたかい喜びだった。
ニンゲンはまたやってきて、小さいメダカを二匹攫っていった。群れはもう残り六匹になってしまったことになる。近頃この辺りでニンゲンが多いというので、明日は少し川下の方へ行くことにした。これ以上、リヤルやウオンと同じように死んでしまうメダカを増やしたくなかった。
川下への移動もすんだ。ハミは最近少し話してくれるようになって、ある晩恐ろしい話を聞かされた。
「ニンゲンっているでしょう」
「うん」
「あの生物、ブラックバスを食べるらしいのよ」
「えぇっ!ホント?」
ハミは答える代わりにこくりと頷いた。
「それも水上に引き上げて、体を裂いて食べたいところだけ食べるとか」
「うぅ……」
「何回もニンゲンが私たちを捕まえるのも、食べるためなんじゃないかしらって思って」
「確かに。ブラックバスを裂いて食べるような奴、こんなに小さい僕らなんて一日に何十匹も食べてるかもだもんね」
怯えている風に見えないようには気をつけたけれど、内心すごく怖くてその夜はよく眠れなかった。それでもニンゲンのせいで死んでしまうメダカはこれ以上出したくなくて、今度こそ群れを守るんだ、と意を決した。
朝日がきらきらと綺麗な日だった。ボウフラを追いかけ回していたときに、ニンゲン、いや網が襲ってきた。逃げ足の速いハミと僕は網を引き付けて、その間に群れのみんなを逃がしたが、泳いでいた時間が長くて疲れた僕は、両脇から来た網から逃げられず捕まってしまった。
あぁ、もう死ぬの?八つ裂きにされて美味しく食べられるの?やりたいことはたくさんあったのに……、リヤルとウオンの分も充実した人生を生きたかったのに……?
ぐるぐると回る思考にのまれ、僕は結局誰にも何も言えないまま引き上げられた。
気がついたらここにいた。プラスチックとか言う謎の檻に閉じ込められている。水は僕がいた川の水と同じで、違うのは流れていないことだった。やけに青白い光が普段より低いところからぼんやりと照らしている。
無意識に水草の入り組んでいるところに逃げていたようだ。向こうにニンゲンの巨大な顔が見える。そしてそいつから腕が伸びてきて、粒をたくさん水に落として去っていった。ドスンドスンと重苦しい振動で水が震える。
「どうせ殺す気なんだろうな……、ってこれは何?」
近づいてみてわかった。少し変だけれど、これは食べることができるって。
「……美味しい」
まだニンゲンへの警戒を解く気にはなれなかったけれど、今のところは殺す気ではないことはなんとなくわかった。
ほんの少し安心しただけだと言うのに、疲れがどっと押し寄せてきて僕は眠りに落ちた。